速記者ってどんなお仕事?

日本国内で「ソッキシャです」と自己紹介して、一体、何割の人がピンとくるだろうか。

果たして脳内で「速記者」と変換をしてくれるだろうか。

少なくとも、私が今まで出会った人たちは「速記者」がどんな仕事なのかということは、ほぼ知らないというか、そんな人種の人に初めて出会ったと言う人ばかり。

それはそうだ、速記者が作るのは主に議事録である。その市場は相当に小さいゆえに速記者の数だって少ない。

そんなイリオモテヤマネコ的な職業、速記者とはどういう存在なのか紹介していきたいと思う。

 

選ばれし速記者とその他大勢

速記者には、(1)選ばれし衆参議員のテレビ中継で映るような速記者、(2)民間企業に属する速記者の2種類が存在する。

ちなみに(1)に関しては養成所が廃止されたことから、もはや目指すことすらできない。まさに選ばれし者のみである。

今回スポットを当てたいのは(2)の民間企業に属する速記者たちだ。こちらに関しては一定の需要があり、就職するのがそこまで大変ということはない。(大事なのは採用されてからである)

 

民間の速記会社の実態

取引先は主に地方行政、省庁、その外郭団体(独法公益法人)などが主だと考えられる。民間企業でも株主総会等は速記会社に依頼し、議事録を作成する場合もあるが、わざわざ依頼するようなケースは少ない。

よって、民間速記会社は入札によって、地方行政や省庁の仕事を獲得していることが大半だ。

情報公開の観点から、省庁などで開催した会議については、資料、議事録をホームページに掲載する必要があるため、その都度、議事録を作成しなくてはならない。

それらについては、速記者が会議に赴くことが多いが、最近では音声データを受け取ってテープ起こしとして議事録を作成することも増えている。

そのほかに出版社やコンサルティングファームからの速記者派遣の依頼、裁判の証拠用のテープ起こし等などもあるにはあるが、基本的には前述のように、省庁や地方行政などが大口顧客と言える。

 

民間企業の速記者とはどんな人間なのか

基本的には速記技術を学んだ者が多いが、中には経験が全くないまま入社する者もいる。それは数十年前と比べて、録音技術が非常に発達したためである。

その代わりに集音マイクの設営や切替等などの音響寄りの技術が要求され、いかにいい音声を録るかということが重要である。それが議事録自体のクオリティ、完成のスピードを左右する。

 

会議現場も大事ではあるのだが、帰社後から取りかかる原稿作成こそが業務の本質である。

たった2時間の会議であっても、原稿を仕上げるには8~15時間が必要となるためだ。

時間数にばらつきがあるのは、会議の中には深い専門知識が必要となる場合もあり、法律、福祉、医学、科学など内容が幅広く、専門書を片手に作業することもあるからだ。

がん研究の最先端の学術会議も、食物添加物の安全性の会議も、刑事施設の被収容者の調査に関する会議も、これら全ての知識が必要だ。

 

適当にやろうと思っても手を抜くことなど絶対にできない。

何しろそれらの議事録は情報公開の名のもとに、省庁や地方行政が未来永劫、ホームページに掲載し続けるものなのだ。

発言者や用語の間違いは絶対にあってはならないため、校正には非常に時間をかける。

速記者はこだわりが強く、まじめな人間が多い。(そうでないと続かない)

ちなみに慢性的な肩こりとドライアイは職業病だ。

 

そんな速記者の未来は

…決して明るくない。

NTT研究所の音声認識技術、人工知能の発達、それらによって速記会社の存在意義そのものが問われる未来は近いと感じている。

長い目で見れば、この仕事を人にはおすすめできない。

ただ、導入コストや認識をするためには、音声の明瞭さが求められることを考えれば、すぐにとってかわるということはないだろうとも感じている。

現状の音声認識では前後の文脈を理解した上で起こすことは難しいし、ICレコーダーを机にぽんと置いたような状況では認識精度が大幅に下がる。

そこに関しては、今はまだ人間の技術が勝っている。

人間が耳で聞いて起こすからこそでき得ること、人間にしか理解できないニュアンスを文字の上で生かすことができる。

 

しかし、果たして10年後はどんな様相になっているのだろうか。

そんなことを考えながら、今日も速記者はキーボードを叩き続ける。